ウェルビーイングなオフィスとは?導入メリットと設計ポイントを解説
ウェルビーイングなオフィスとは、従業員の身体的・機能的・心理的な快適性を満たすことで、パフォーマンスと幸福度を同時に高めるオフィス環境のことです。快適な温度や照明はもはや最低条件であり、今求められるのは「集中・休息・選択・つながり・成長」を支える空間設計です。本記事では、環境心理学の知見とGOOD PLACEの調査データをもとに、ウェルビーイングなオフィスの考え方と実践的な設計のポイントをお伝えします。
目次
1. ウェルビーイングなオフィスが注目される背景
1-1:人的資本経営の広がりとオフィスの役割変化
2023年、上場企業に対して有価証券報告書への人的資本情報の開示が義務化されました。
健康・安全・エンゲージメントといった指標が「測られるもの」になったことで、企業がこれらの数値を改善するための施策を求めるようになっています。
その中でオフィス環境の整備は、施策として取り組みやすく、効果が従業員に直接見える領域として注目が高まっています。デスクや会議室の配置を変えることは、人事制度の改革と比べてスピード感を持って実行できます。働く場所そのものが変わることで、従業員が変化を実感しやすいという特徴もあります。
こうした背景から、オフィスは「管理すべきコスト」ではなく「人材戦略を体現する場」として、経営上の位置づけが変わりつつあります。
1-2:「出社する意味」が問われる時代
テレワークが普及した後も、出社義務または出社推奨を設けている企業は70.2%にのぼります(GOOD PLACE事前調査, n=4,340)。多くの企業が出社回帰に動いている一方、課題も見えてきました。出社を求めるだけでは、従業員の満足度もエンゲージメントも上がりづらいものです。
GOOD PLACE 「オフィスとコミュニケーションに関する実態調査」2025年
自然に会話が生まれる空間だと感じている人の80.5%がオフィスに満足。そうした体験が得られないオフィスは、出社を義務化しても従業員の心が離れやすい状態に置かれているとも考えられます。
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GOOD PLACE 「オフィスの”もやもや”に関する調査」2025年
理想のオフィスと現実にギャップを感じている人が約6割にのぼることも分かっています。
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2. オフィスに求められる3つの快適性
環境心理学者のJacqueline Vischer(2005)は、オフィス環境における快適性を3つの層で捉えるモデルを提唱しています。このモデルは、ウェルビーイングオフィスを設計する上での基本的な考え方として、今も多く参照されています。
2-1:物理的快適性—スタートライン
物理的快適性とは、温度・湿度・照明・空気・騒音など、身体が感じる環境の快適さを指します。労働安全衛生法や事務所衛生基準規則では、気積10m³/人以上、一般的な事務作業における照明300lx以上などの基準が定められており、これらが物理的快適性の土台になります。
Vischerはこのモデルにおいて、物理的快適性が満たされなければ機能的・心理的快適性の議論が成り立たないと位置づけています。「不快でない」と「働きやすい」は別物です。物理的快適性はあくまでスタートラインとして捉えることが重要です。
GOOD PLACE 「オフィスの”もやもや”に関する調査」2025年
不満上位に挙がったのは「空調が調整しづらい」18.8%、「建物が古い」14.8%。法令基準を満たしているだけでは、従業員の満足につながりづらい時代になっています。
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2-2:機能的快適性—多くのオフィスで差がつきやすい領域
機能的快適性とは、環境が従業員の業務をどの程度支援できているかを指します。「作業の目的に合った空間を選べるか」が、機能的快適性の本質です。集中して作業したい、チームでブレストしたい、1on1で話したい、少し気分を変えたい——働く目的は一日の中でも変化します。その目的に合った場所が用意されているオフィスが、機能的に快適なオフィスといえます。
GOOD PLACE 「フリーアドレスオフィスの実態調査」2025年
不満の1位「静かに作業できる席が足りない」29.7%。どんなに洗練されたデザインのオフィスでも、目的に合う場所がなければ機能的な快適性は損なわれます。
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2-3:心理的快適性—これからの重要ポイント
Vischerによると、心理的快適性の核となるのは「コントロール感・帰属感・テリトリー感」の3つです。自分の働き方を自分で選べる自律性、「ここが自分の場所だ」という帰属感、そして心理的な安全を感じられる環境——これらが、今後のオフィスで差をつける領域になってくると考えられます。
空間の設計は、こうした心理に直接影響します。海外の研究では、自分なりにワークスペースをカスタマイズできる環境で働く従業員ほど、職場への満足度が高く、ウェルビーイングの向上にもつながる傾向がある(Wells, 2000)。オフィスの内装や色づかいに企業文化が表れていることも、従業員の帰属感を支える一因になります。そして帰属感は心理的快適性の中心にあり、人が組織にとどまる理由のひとつになると考えられています。
GOOD PLACE 「オフィスの”もやもや”に関する調査」2025年
オフィス環境への不満が解消されない場合に、退職を検討する一因になると答えた人が約5割。3つの快適性を意識した空間設計が、定着率やエンゲージメント向上の土台になると考えています。
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3. ウェルビーイングなオフィスを構成する5つの要素
3つの快適性を実現するために、具体的にどのような要素が必要でしょうか。ここでは「集中・休息・選択・つながり・成長」という5つの観点に分けて見ていきましょう。
3-1:集中できる環境
集中を妨げる要因として、周囲の音、人の動きや視線などの視覚的ノイズ、急な声かけなどが挙げられます。
オープンオフィスでこれらが重なると、作業に集中しようとするたびに注意が途切れ、思考の深度が浅くなりがちです。
有効な対策として、防音ブースや吸音パーテーションの設置、視線を遮る什器の配置などが挙げられます。GOOD PLACEの「フリーアドレスオフィスの実態調査」(2025年)でも、静かに作業できる席の不足を感じている人が約3割にのぼっており、集中環境の整備は多くのオフィスで共通課題となっています。
物理的に「集中できる場所」を用意することも重要ですが、それ以上に大切なのは「必要なときに集中できる場所がある」という安心感そのものです。この安心感が、日常的な業務パフォーマンスを底上げします。
3-2:休息できる環境
休息スペースは「サボりの場」ではなく、集中力を回復させるための大切な時間です。GOOD PLACEの「オフィスの”もやもや”に関する調査」(2025年)では、「休憩スペースが少ない」がオフィスへの不満1位(21.9%)として挙がっており、休息環境の整備が多くのオフィスで課題になっていることが分かります。適切に休むことが、結果として高いパフォーマンスにつながります。
緑や自然光を取り入れた環境がストレス軽減や集中力の回復に効果があるとされています。バイオフィリックデザインの観点から植物・自然素材・外の景色を感じられる設計を取り入れることも、休息効果を高める方法のひとつです。
関連する記事はこちら▶ バイオフィリックデザインとは? )
3-3:選択できる環境
自分の仕事内容や気分に合わせて働く場所を選べること——この「選べる」という感覚そのものが、ウェルビーイングに直結します。環境心理学でいう「コントロール感」です。「選択肢がある」だけでなく、選択を支える仕組みまで整えることが重要で、フリーアドレスの導入やABWの設計など、組織の働き方に合った形で選択肢を設計することが大切です。
( 関連する記事はこちら ▶ フリーアドレスとは? ▶ ABWとは? )
3-4:つながれる環境
オフィスに出社する意味として、多くの従業員が挙げるのが同僚との自然なコミュニケーションです。廊下ですれ違いざまに交わす一言や、コーヒーを取りに行った先での雑談——こうした偶発的な交流が、チームの関係性を育み、新しいアイデアのきっかけになることもあります。一方でGOOD PLACEの「オフィスとコミュニケーションに関する実態調査」(2025年)では、51.3%が雑談疲れを経験しているという結果も出ており、交流の機会を増やすだけでなく、自然な交流が生まれやすい空間設計を意識することが大切だといえそうです。偶発的な出会いを生む動線設計や、気軽に立ち寄れるコラボレーションゾーンの配置も、そうした交流を後押ししてくれそうです。
3-5:成長できる環境
ウェルビーイングなオフィスは、業務をこなす場所であるだけでなく、学びと成長を支える場所でもあります。ラーニングスペース、社内図書館、オープンなセミナースペースなど、「学びの場」としての機能を持つオフィスは、従業員にとってキャリア形成の拠点にもなります。成長機会を感じられる環境は、定着率にも影響すると考えられます。空間の整備だけでなく、社内勉強会や共創を促す仕掛けなど、仕組みとセットで設計することが大切です。
4. 設計・リニューアルでおさえるポイント
4-1:多様な働き方に応えるゾーニングへ
ウェルビーイングなオフィスという観点では、「何をするための場所か」という目的を軸に設計することが重要です。集中・コラボ・休息など、目的別にエリアを分けることで、従業員が「今の自分に合った場所」を迷わず選べるようになります。目的に合う場所がすぐに見つかる体験そのものが、心理的な安心感につながります。正解の分類数があるわけではなく、組織の規模・業種・働き方の特性によって最適な構成は異なります
4-2:什器・照明・音環境のウェルビーイング設計
照明については、サーカディアンリズム(体内時計)に合わせた調光が健康経営の観点から注目されています。午前中は青白い光で覚醒を促し、夕方にかけて温かみのある光に変化させることで、自然な集中と休息のリズムを支えます。( 関連する記事はこちら ▶ サーカディアン照明とは? )
音環境については、「静かすぎず・うるさすぎず」のバランスが集中力に影響します。特に集中して作業したい場面では、周囲の会話や電話の音が気になりやすく、作業の質に影響することがあります。フォンブースや個室ブースの設置は、こうした音環境を整える上での有効な選択肢のひとつです。
( 関連する記事はこちら ▶ フォンブース導入のポイント )
什器についても、姿勢を変えやすいオフィスチェアや昇降デスクの導入が、身体的快適性の担保につながります。座りっぱなしによる疲労を軽減し、姿勢の変化が集中力の維持を助けます。
4-3:ハードだけでは完結しない—運用設計の重要性
空間を整えることに意識が向きやすい一方で、使い方の設計まで目が届きにくいこともあります。
「良い空間をつくったのに、思うように使われない」——こうした声は、オフィスリニューアルの現場で聞くことが多いものです。空間設計と利用ルール・制度の見直しが、別々に進んでしまうことは珍しくありません。集中して作業できるエリアでの通話ルール、座席予約システムの運用方法、リフレッシュスペースの使い方など、空間と合わせて整えていくことで、その価値がより活きてくるのではないでしょうか。
さらに言えば、オフィスは完成がゴールではないとも言えます。「使われていない会議室をフォンブースに変える」「集中ゾーンが常に満席なので増設する」など、実際の使われ方を見ながら少しずつ手を入れていくことで、空間はより機能するものに育っていきます。組織の変化や働き方の進化に合わせて、オフィスもゆるやかにアップデートしていく——そんな発想を持っておくとよさそうです。
( 関連する記事はこちら▶ オフィスリニューアルとは? )
5. オフィスは「コスト」から「人的資本投資」へ

Vischerの3層モデルで整理すると、物理的快適性から機能的快適性、心理的快適性へと水準が上がるにつれて、従業員満足度やエンゲージメントへの好影響が大きくなると考えられます。
3つの快適性をバランスよく備えたオフィスは、従業員の働き方や組織へのコミットメントにも影響してくる可能性があります。GOOD PLACEの「オフィスの”もやもや”に関する調査」(2025年)では、オフィスへの不満が業務パフォーマンスに影響していると答えた人が約7割(69.6%)にのぼっており、空間への投資が、働く人のパフォーマンスにも関わってくることが見えてきます。
まとめ:空間が、働く人の力を引き出す
ウェルビーイングなオフィスとは、単に「おしゃれで快適なオフィス」ではありません。物理的・機能的・心理的な3つの快適性を備え、集中・休息・選択・つながり・成長という5つの要素を空間として体現することで、従業員一人ひとりのパフォーマンスと幸福度を支える場所です。
これまでコスト管理の一部として捉えられてきたオフィスを、従業員の力を引き出すための投資として見直す—こうした視点の転換が、これからの経営において意味を持ってくるのではないでしょうか。
- ウェルビーイングなオフィスとは何ですか?
- ウェルビーイングなオフィスとは、従業員の身体的・機能的・心理的な快適性を満たすことで、パフォーマンスと幸福度を同時に高めるオフィス環境のことです。温度や照明などの基本的な快適性はもはや最低条件であり、「集中・休息・選択・つながり・成長」を支える空間設計が求められています。GOOD PLACEの調査でも、理想のオフィスと現実にギャップを感じている人が約6割にのぼっており(オフィスの"もやもや"に関する調査, 2025年)、快適性の再定義が必要な状況がうかがえます。
- 温度や照明などの環境が整っていれば、ウェルビーイングなオフィスといえますか?
- それだけでは十分とはいえません。業務目的に合わせて場所を選べる機能的快適性、コントロール感や帰属感を得られる心理的快適性まで加わることで、従業員のパフォーマンスと幸福度により大きな好影響が期待できます。GOOD PLACEの調査では、オフィス環境への不満が解消されない場合に退職を検討する一因になると答えた人が約5割にのぼっており(オフィスの"もやもや"に関する調査, 2025年, n=547)、3つの快適性をトータルで整えることの重要性がうかがえます。
- オフィスでの雑談や交流を増やすことに、デメリットはありますか?
- あります。GOOD PLACEの「オフィスとコミュニケーションに関する実態調査」(2025年, n=884)では、51.3%が雑談疲れを経験していると回答しています。交流の機会を増やすこと自体より、自然な交流が生まれやすい動線設計やコラボレーションゾーンの配置を考えることが重要だと考えられます。
- オフィスの室温・湿度には法律上の基準がありますか?
- 事務所衛生基準規則により、空調設備がある場合は室温を18℃以上28℃以下、相対湿度を40%以上70%以下に保つよう努めることが求められています(努力義務)。なお室温が10℃以下になる場合は暖房等の措置を講じることが義務付けられており、違反した場合は罰則の対象となります。
- ウェルビーイングなオフィスを構成する要素にはどのようなものがありますか?
- 主に5つの要素があります。①集中できる環境、②休息できる環境、③選択できる環境、④つながれる環境、⑤成長できる環境です。たとえば座席予約システムを導入したオフィスは自由選択型より満足度が20ポイント以上高いというデータもあり(フリーアドレスオフィスの実態調査, 2025年, n=441)、仕組みとセットで設計することの重要性がうかがえます。
- ウェルビーイングなオフィスが注目される背景に、どのような制度変化がありますか?
- 2023年3月期決算から、有価証券報告書を提出する上場企業等(約4,000社)に対して人的資本情報の開示が義務化されました。健康・安全・エンゲージメントといった指標についても開示が望ましい項目として示され、これらの数値を改善する施策を企業が求めるようになっています。デスクや会議室の配置変更は人事制度改革よりスピード感を持って実行でき、効果が従業員に直接見える施策としてウェルビーイングなオフィス環境整備への注目が高まっています。
- ウェルビーイングなオフィスの設計は、どこに相談すればよいですか?
- オフィス空間の設計実績が豊富な専門会社への相談が有効です。GOOD PLACEでは集中・コラボレーション・休息など目的別のゾーニング設計から什器・照明・運用ルールまで一貫してサポートするシーンデザインを実践しています。複数の独自調査データに基づいた課題分析も可能ですので、まずはお気軽にご相談ください。






