バイオフィリックデザインがオフィスに与える魅力とは?その効果と実例をご紹介。
オフィスでデスクワークをしているとき、ふと室内や窓の外から植物が見えると、心がほっとした経験はありませんか?
都市化が進んだ現代においても、人間にとって、自然と接点を持つことは必要不可欠だと考えられています。
今回は、この自然との接点に重きを置いたバイオフィリックデザインと呼ばれる手法について、実際の効果から、オフィスへの導入のコツ、そして国内外の事例までご紹介します。
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目次
1. 今注目されているバイオフィリックデザインとは?
1-1 .バイオフィリックデザインとは人間の自然への憧れを取り入れたデザイン手法
バイオフィリックデザインは、人間の自然への憧れを取り入れたデザイン手法で、自然環境との調和を目指しています。
植物や自然光の活用、また、自然の音や素材の使用により、オフィスなどの環境を豊かにし、従業員の生産性や幸福度を高めます。このデザインアプローチは、心地よい空間を作り出し、人々のクリエイティビティを刺激する効果もあります。
1-2. バイオフィリックデザインの由来はバイオフィリア
バイオフィリックデザインの発想の源は「バイオフィリア(Biophilia)」と呼ばれる概念にあります。
バイオフィリアとは、人間が自然に対して持つ愛着や親近感のこと。この概念は、アメリカの生物学者エドワード・O・ウィルソンによって提唱され、人間は自然の一部であり、自然とのつながりを持つことが本能的に求められるという考えに基づいています。
1-3. オフィス、住宅などの建築物から都市計画にまで取り入れられるバイオフィリックデザイン
バイオフィリックデザインは、単に個別の建築物に留まらず、都市計画の重要な要素としても注目されています。
近年の代表例として、ニューヨークのハイラインパークがあげられます。このハイラインパークは、廃線となった鉄道の上に作られ、市民が自然の中を散策できる空中庭園として親しまれています。
このようなプロジェクトは、都市の賑わいや住民の健康、幸福感の向上に貢献し、バイオフィリックデザインの可能性を示しています。
2. バイオフィリックデザインをオフィスに取り入れるメリット
バイオフィリックデザインをオフィス環境に取り入れると、下記のようなメリットが期待できます。
2-1. 生産性が向上する
バイオフィリックデザインを反映したオフィス環境は、従業員の生産性を向上させる一助となります。イギリスのエクセター大学の研究によると、オフィスに観葉植物を置くことで、従業員たちが活動的に働くようになり、生産性が15%上昇することが実証されています。
出典:Nieuwenhuis, M., Knight, C., Postmes, T., & Haslam, S. A. (2014). The relative benefits of green versus lean office space: Three field experiments. Journal of Experimental Psychology: Applied, 20(3), 199–214.
2-2. 幸福度が上がる
また、ビジネス心理学を研究する「ロバートソン・クーパー社」が発行している調査レポートによると、植物や自然光など自然の要素が身近にあるオフィス環境においては、上記の生産性と同じく、人間の幸福度も15%向上する効果があることがわかっています。
出典;ロバートソン・クーパー社:ヒューマンスペース 世界中の職場におけるバイオフィリックデザインの効果(2015年)
2-3. クリエイティブ面にもプラス効果
バイオフィリックデザインは、生産性や幸福度だけではなく、クリエイティブ面でもプラスの効果が期待できます。
川崎市が複数の民間企業と行なった実験によると、オフィスに植栽を取り入れることにより、「創造的な活動がしやすい」と回答した人が14%向上し、さらに、自然の音も取り入れることで、25%まで向上したという結果が出ています。
出典;川崎市、株式会社Creative Green(MIIIIIO)ほか:バイオフィリックデザインの活用に向けた実証実験結果レポート(2022年)
2-4. 採用における魅力づけができる
バイオフィリックデザインを取り入れたオフィスは、採用面においても大きな魅力となります。昨今、企業ではCSR(企業の社会的責任)が重視されており、従業員の健康や幸福に関わる取り組みは、新たな人材を採用することにおいても重要な役割を果たしています。
これらの研究結果からわかるように、バイオフィリックデザインは従業員の生産性から幸福度、そしてクリエイティビティまで、あらゆる領域で良い影響を与えるものとして注目されています。
3. バイオフィリックデザインをオフィスに取り入れる方法
これまでバイオフィリックデザインの魅力についてお伝えしましたが、この章では、実際にどのようにオフィスに取り入れたら良いのか、簡単にできる具体策をご紹介いたします。
3-1. 観葉植物を置く
オフィス内に観葉植物を配置しましょう。これにより、空間が活気に満ち、実際に空気も浄化されます。室内向けの観葉植物としては、サンスベリアやドナセナ、アイビーなどが一般的にお手入れがしやすく、空気清浄の効果も高いと言われています。
3-2. 素材にこだわる
自然素材を使用した家具や什器を選ぶことで、自然の温もりを室内に取り入れられます。手に触れた時や座った時、そして目に入るものに自然を感じることで、心がほっと落ち着く空間にすることができます。身近なところでは、木材を多く取り入れると良いでしょう。また、床や階段などに天然の石材を取り入れることも、より自然らしい空間を演出する方法のひとつです。
3-3. 香りを演出する
アロマディフューザー等を活用して自然の香りを空間に広めることで、精神面での良い効果が期待できます。
例えば、執務スペースなど集中力を要する空間にはミントなどのメントール系、休憩室などリラックスを目的とした空間には、心を落ち着かせるラベンダーなど、部屋の用途にとって香りを使い分けることも効果的です。
3-4. 自然音をBGMに
鳥のさえずりや川のせせらぎなど、自然の音をオフィスのBGMに取り入れてみましょう。執務スペースだけではなく、来客スペースでこのような自然音を取り入れることで、ゲストにとってもリラックスした空間をつくることができます。
3-5. 自然光で体内時計を正常化
体内時計を意識して光を取り入れることは、健康的な生活を送るためには効果的だと考えられています。
オフィスではブラインドを閉めっぱなしにせず、積極的に自然光を取り入れてみましょう。
生体リズムに配慮したサーカディアン照明についてのコラムはこちらから
4. バイオフィリックデザイン導入時の注意点
バイオフィリックデザインを導入する際には以下の点に注意しましょう。
4-1. コストの管理
バイオフィリックデザインの導入には初期費用がかかりますが、その後の運用コストも考慮して計画しましょう。前もって適切な予算を設定し、コストパフォーマンスを見極めることが重要です。
4-2. メンテナンスの管理
植物や自然素材を取り入れる際には、必ずメンテナンスが必要です。適切な管理体制を整え、植物の水やりや家具の手入れなどを定期的に行いましょう。
4-3. オフィスの機能性や安全性の確保
バイオフィリックデザインを取り入れつつも、オフィスの機能性や安全性を損なわないよう注意が必要です。例えば、植物を置きすぎて通路が歩きにくくなった、自然光を取り入れすぎて部屋の温度が上がってしまった、などの不具合が起きないように、適量・適切なデザインに配慮し、作業効率や安全面を確保しましょう。
5. バイオフィリックデザインの事例
5-1. 日本のオフィスにおけるバイオフィリックデザインの事例
フラワーショップ「青山フラワーマーケット」を運営する株式会社パーク・コーポレーションが手がける空間デザインブランド「parkERs(パーカーズ)」のオフィスは、“公園”をテーマに、自然の要素がふんだんに取り入れられています。
天井や壁面に多くの植物が配置されているほか、杉の丸太や水盤など、オフィスにいながら自然の中にいるような工夫がされています。また、竹炭やコーヒー粕などの廃棄物から作られた床材を使用するなど、サステナビリティへの取り組みも行なっています。
参考:空間デザインブランド parkERs(パーカーズ)新しいオフィスをデザイン。ブランドコンセプトである“公園”をテーマに、自らのワークプレイスで様々な研究実験を開始しました
5-2. 世界のオフィスにおけるバイオフィリックデザインの事例
米国バージニア州のアマゾンのオフィスは、まさにバイオフィリアの概念を体現したデザイン。屋内外に地元の木々を植えたり、庭園を整備したり、緑豊かなオフィス環境を提供しています。また、オフィスだけではなく、一般市民に解放された公園やショッピングエリアまでも整備し、地域全体で緑豊かな空間を享受できる設計になっています。
参考:Amazonがアーリントン第2本社キャンパス計画の第2フェーズを発表、螺旋状のビルをNBBJが設計
6. バーチャルオフィスでもバイオフィリックデザインの効果はある?
これからのオフィスを考える上で、バーチャルオフィスの存在も忘れてはいけません。Matthew H.E.M Browningら(2020)は、バーチャル空間における屋外環境が幸福度に及ぼす影響を調査するため、リアルの屋外環境、リアルの室内環境、360°VRで再現された屋外環境それぞれに6分間曝露した前後の回復力、気分を計測しました。その結果、リアルかVRかに関わらず、屋外環境への曝露は生理的覚醒を高め、回復に寄与することを明らかにしました。つまり、バーチャル空間であっても、自然を感じさせるデザインは、人間にとって良い効果をもたらすと考えられるのです。
出典:Sharon Frost, Lee Kannis-Dymand, Vikki Schaffer, Prudence Millear, Andrew Allen, Helen Stallman, Jonathan Mason, Andrew Wood, Jalasayi Atkinson-Nolte,Virtual immersion in nature and psychological well-being: A systematic literature review,Journal of Environmental Psychology,Volume 80,2022,
7.まとめ
バイオフィリックデザインは、現代のオフィス環境において、従業員の幸福度や生産性を向上させるための重要なツールとなっています。自然の美しさと健康への配慮を組み合わせたこのデザインは、私たちの働く場所をより魅力的な空間に変えていくでしょう。皆さんのオフィス環境でも、ぜひ取り入れてみてください。
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