株式会社コスモスモアは、2024年1月8日に「株式会社GOOD PLACE」に社名を変更いたしました。 詳細はこちら×

【インタビュー付】THE GOAT AWAJI

外構
リゾート地である淡路島では多くの施設で南国風の大きな葉の植栽が使われているが、あえて繊細な植栽を採用しリゾート地から一歩隔てられた独自の世界感を演出

外構

エントランス
瓦の三大産地でもあることから、淡路島の「淡路瓦」をサインに使用

ロビー
壁面は重厚感のある建材を使用し、荘厳な雰囲気に。上部は繊細な組子とシャンデリアのようなペンダントライトが光と影を織りなし洗礼された空間になるよう設計。

メイン・プレミアム 翠凪
最大6名で使用できる客室。リビングと寝室の仕切り扉を開けると一体感のある空間に変化。

メイン・プレミアム 翠凪
リビング

メイン・プレミアム 翠凪
ベッドルーム

メイン・プレミアム 翠凪
サニタリールーム

メイン・プレミアム 翠凪
バスルーム

メイン・プレミアム 翠凪
サウナ

メイン・プレミアム 碧斗
2ベッドルーム、定員6名の客室。景色のよいルーフテラス付き。

メイン・プレミアム 碧斗
リビング

メイン・プレミアム 碧斗
バスルーム

メイン・プレミアム 碧斗
ルーフテラス

スイートヴィラ 結雅
リビング

スイートヴィラ 結雅
リビング

スイートヴィラ 結雅
リビング・屋外プール

スイートヴィラ 結雅
リビング・屋外プール

スイートヴィラ 結雅
ベッドルーム

スイートヴィラ 結雅
バスルーム

スイートヴィラ 漆光
リビング

スイートヴィラ 漆光
リビング・屋外プール

スイートヴィラ 漆光
リビング・屋外プール

クライアント
株式会社キコークリエイト
プロジェクト
THE GOAT AWAJI
ご相談背景
兵庫県の淡路島に、元々保養所として利用されていた築35年の建物のリノベーションと新築のリゾートヴィラからなる新しい宿泊施設をつくりたいというご要望をいただいた。
コンセプト
~異世界へ誘う~
「宿泊される皆さまに非日常を体験してもらうため、施設内で独自の世界観を創りたい」というお客さまの希望に加え、淡路島は『古事記』に記された「国生み神話」で日本で最初に生まれた島とされていることから「国生み神話」に登場する神様「イザナミ」からインスピレーションを受け、深い歴史を持つ淡路島に訪れた宿泊客を非日常感が味わえる「異世界へ誘う(いざなう)」というデザインコンセプトを掲げた。
提案内容
「異世界へ誘う」というデザインコンセプトのもと、元々は保養所だった築35年の3階建RC造の建物を改修し、ハイエンドかつラグジュアリーな宿泊施設にリノベーション。あわせて、新しくヴィラ2棟を建築した。

改修にあたり、エレベーターの増築や古い壁の撤去に伴う新たな補強梁の設置のため、建物の安全性を探る構造調査を実施。調査結果をレイアウトの見直しや補強梁の導入に活用した。
また、調査結果から梁の高さや既存の耐力壁に制限がかかったため、設備や梁を交えた折り上げ天井を設置してデザインを施したり、窓や室内の間仕切りに大きなガラス面を使用したりと、限られた空間でありながら自由で広いスペースを体感できるよう設計。既存の必要要素は残したまま、新たな機能や希望するデザイン性を付加して建物を生まれ変わらせた。

淡路島は関西で人気のリゾート地ということもあり既に多くの宿泊施設があったため、ここでしか体験できない特別感を作り出し他の施設と差別化を図ることが重要と考え、南国感ではなく他の世界と隔離されたような独自の世界観を目指している。
アワード
TECTURE AWARD
プロジェクト
メンバー
嶋田 郁未 / 土居 直人 / 髙橋 頌二 / 東條 浩幸 / 泉 悠平 / 水谷 龍一
用途
ホテル
実施内容
設計 施工 PM
規模
約180坪
立地
兵庫県淡路市
竣工
2024年7月
撮影
Keiko Chiba (Nacasa & Partners)

PROJECT STORYプロジェクトストーリー

ただ生まれ変わるだけではない、リノベーションからはじまる新しい価値創造

築35年の保養所をリノベーションしたメイン・プレミアム棟と、テニスコートを更地にして新しく建てた木造平屋のヴィラ棟からなる1日4組限定の高級リゾート宿泊施設「THE GOAT AWAJI(ザ ゴート アワジ)」。

本インタビューでは、「THE GOAT AWAJI」の施主である株式会社キコークリエイトの笹倉代表に本プロジェクトや事業に対する想いを伺いました。

取材/嶺竜一(ハートノーツ)
執筆/GOOD PLACE

右:株式会社キコークリエイト 笹倉代表 左:株式会社GOOD PLACE 嶋田  写真:Takuya Hayasaka

 

嶋田
キコークリエイト様では全国に不動産を所有し、宿泊施設も次々とオープンさせるなど、幅広くビジネスを展開されていらっしゃいます。 

笹倉氏(以下、敬称略)
当社では、もともとテナントを借りて新聞販売店をしていました。そのうち3店舗、4店舗と店舗を増やしていくうちに、テナントへ払う家賃も増えていって。それなら自分たちで不動産を所有し、家賃を支払うのではなく資産運用に活用しようと考え、10階建てのマンションを建て家賃収入を得るビジネスを始めました。今では全国に120ほど不動産があります。 

株式会社キコークリエイト 代表取締役 笹倉 光雄様  写真:Takuya Hayasaka

 

嶋田
2018年から淡路島に多様なコンセプトの宿泊施設をオープンし、2024年7月には私たちGOOD PLACEが担当させていただいたTHE GOAT AWAJI開業しました。なぜ、この淡路島でホテル事業を進めようと思ったのでしょうか? 

笹倉
淡路島はキコークリエイトのある大阪からアクセスがよく、以前から休暇のたびによく遊びに来ていました。当社の宿泊事業は、実はこの淡路島で偶然見つけた別荘からスタートしたです。気になる建物がちょうど売りに出ていたので即決で購入し、プールテラスを改装して「Villa Mon Temps Awaji」としてオープンしました。その経験を基に、今回のTHE GOAT AWAJIを含め、淡路島に計8つの宿泊施設を展開するまでになりました。

THE GOAT AWAJIは当社の集大成とも言える施設で、以前から抱いていた「大きなリビングでみんながゆったり過ごせる空間」という理想を形にできました。 

嶋田
「THE GOAT AWAJI」の詳細を決めていくときも、「みんながゆったりと過ごせる空間にしたい」と仰っていましたよね。これはどのような思いから生まれた考えなのでしょうか?

株式会社GOOD PLACE 大阪支店 ストラテジックデザイン課 嶋田 郁未(メイン・プレミアム棟 設計担当)

 

笹倉
通常、家族や友達とホテルに泊まっても、みんなで一カ所に集まってワイワイすることは少ないでしょう?でもTHE GOAT AWAJIでは、大きなリビングで好きにお酒を飲んだり料理を作ったりして、自由に過ごせる空間にしたいと考えました。この大きなリビング+複数の個室という組み合わせはVilla Mon Temps Awajiも同じです。

嶋田
「THE GOAT AWAJI」のメイン・プレミアム棟と呼ばれる建物の客室フロアは、もともと30平米程度の小部屋に分かれ、男女別の浴室を備えていましたが、笹倉代表の希望である「みんながゆったりと過ごせる空間」にするため、1フロアでの宿泊ができる仕様に変更しました。今回のリノベーションで壁を取り払い、共有部とセキュリティラインを完全に分けてプライバシーを確保したレイアウトにしています。 

右:メイン・プレミアム棟 左:ヴィラ棟

 

大きなリビング・ダイニング、またお客さまが思い思いに過ごせるようにという考えから高級宿泊施設には珍しいキッチンも備え、2部屋の寝室、サウナやジャグジーも完備しています。3階はルーフバルコニーがあるので、BBQができる仕様にしました。新築のヴィラ棟も、同じように1棟にすべての機能を備えています。

笹倉
築35年のわりに外観はキレイやったけど、内装はびっくりするくらいボロボロで(笑)。よくここまでキレイになったなと思います。 

外観のBefore/After

 

テニスコートがあった場所にヴィラ2棟が建つ

 

嶋田
GOOD PLACEでは建物調査を行い、外観のきれいな状態を活かしてコストを抑えつつ、耐震や利便性向上のための計画をご提案しました。具体的には、 

  • 外壁面は状態が良い部分は洗浄のみ、補修は一部に留めることで、既存の良さを生かす
  • 耐震診断を実施し、解体計画や構造補強を検討。既存の梁や補強梁など、改修工事においてデメリットになりそうな構造体も、折り上げ天井にするなど工夫して、違和感なく空間に馴染む計画に
  • 利便性向上のためのエレベーター増築

など既存建物のメリットを残し、デメリットを強みに変える計画を行うことで、新築にはない改修案件ならではのデザインになるように設計しています。 

客室のBefore/After

 

浴室のBefore/After

 

建物の可能性を最大限に引き出すことを大前提としていましたが、やはり特に難しかったのは築35年の建物における予測不能な課題の対応でした梁や柱床下など解体後に発見された構造的問題なども迅速に解決策を考えキコークリエイト様と何度も話し合いながら細かい部分まで対応を行いデザイン性を損なうことなく技術的課題を解決することで、通常、同規模の新築なら2年程度かかる工期を実質9カ月で竣工させることができました 

笹倉
ベースとなる要望としては「宿泊される皆さんに非日常体験をしてもらえるよう、施設内で独自の世界観を創りたい」といったものがありました。4社コンペを実施して、途中、紆余曲折もありましたが結果としてGOOD PLACEさんにお願いしようとなりましたね。こちらが出した要件に対して丁寧で細やかなコミュニケーション、そして最適な提案をしてくれたと思っています。 

これまで、いろいろな建物の建築・改装を経験していますが、お金をかけて大きなものを手掛けるときにはやはり不安はつきもの。その点、GOOD PLACEさんはこれまでのどの会社よりも打ち合わせが多く設定されていて、何かを決めるときもメリット・デメリットをしっかり伝えてくれたり、一つひとつ細かいところまで確認しながら進めてくれたりと私たちの不安な部分をしっかり払拭してくれる進行(プロジェクトマネジメント)が印象的でした

嶋田
ありがとうございます。皆さんにより納得・満足いただける形で建物を創り上げたいという一心で、プロジェクトマネジメント担当のソリューションPMを筆頭に施工・設計が一丸となって進めていきました。

今回の企画では、キコークリエイト様からのさまざまな要望を咀嚼しながら、また、私なりに淡路島という場所の歴史を紐解きながらコンセプトやストーリーを組み立てています。地域の歴史から独自性の高いコンセプトを導き出そうと、淡路島が舞台になっている『国生み神話』の『イザナミ』という神様からインスピレーションを受け、非日常感を味わえるような『異世界へ誘う』というデザインコンセプトを掲げました。

デザインコンセプト

 

ホテル名に『史上最高な』という意味の『GOAT』という単語が含まれていますが、その名に劣らないハイエンドかつラグジュアリーな空間をつくり上げることができたと考えています 

笹倉
提案してもらったコンセプトやデザインは、第一印象からとても良かったです。こちらが伝えた要望しっかりと理解したうえで提案しくれているなと感じましたね。

嶋田
発注いただいたあとも、詳細をめていく打ち合わせにはすべて笹倉代表が参加してくださって、とても熱意を感じましたこの熱意にはぜひ応えていきたいとチームみんなが思っていましたね。そして、提案内容がイマイチだと「あかん」、よければええやんとすぐ率直な意見をくださったのも、とても印象的でした。私は毎回一喜一憂していましたが(笑)。 

笹倉
そう?(笑) 定例のたびにいろいろ提案してくれてガッツあるなぁと思って。ボツになるかもしれない案も、手間暇かけてしっかり図面に落として一つひとつ提案してくれたり、こちら側が判断しやすくなるようなビジュアルプレゼンテーションが多かったり、惜しげもなくどんどん案や図面を形にして提案してくれる姿はとても記憶に残っていますね そのお陰で、私たちもいろいろイメージがついてどんどんアイデアや要望を出してしまったところもあったかもしれない(笑)。

嶋田
要望はたくさんいただきましたが(笑)、良いものを共創している感覚を強く感じましたね。 他にも印象に残っているものでいうと「植栽がたくさん欲しい・森に囲まれた感じにしたい」という笹倉代表の要望でしょうか。当社ではこの要望を受け、淡路島の気候に適した植栽計画を立案し、四季を通じて緑を感じられるデザインを提案させていただきました。 

植栽計画

 

笹倉
遠くの山へ行けばいくらでも緑はあるけど、身近で、しかもリゾート地で緑に囲まれて過ごす機会はなかなかないでしょう?こういった形でを楽しむっていうのも、ある種の贅沢思ってね緑が生い茂ってるプライベート感も演出してくれますしね。

嶋田
客室にいてもプライベート感が感じられるよう、アプローチなどの外構だけでなく客室のバルコニーにも植栽を積極的に取り入いま植栽選定では成長速度や維持管理のしやすさを考慮して葉の茂った常緑樹を中心に構成していましたが、竣工から数カ月経ちどの植栽もとてもよく育っているのを見ると、設計意図がしっかり反映・実現できていると感じました。建築と植栽を一緒にデザインすることで建物全体の一体感を生み出しまさに森に溶け込むような空間づくりができと思っていますこれから一層森らしさが演出できると思いますので、春・夏の姿がとても楽しみです! 

客室からもバルコニーの植栽がよく見える

 

笹倉
どのエリアデザインも良けれど、個人的に抜群と思っているのは1階のエントランスロビーの設え。ロビーには自分で選んだこだわりのアンティーク置き時計を置いていすが、それが空間のアクセントになって一層世界観を際立たせてくれてと感じま

エントランスの吹き抜けは組子細工が煌めく(右手のロビーラウンジ入口に置き時計を配置)

 

嶋田
笹倉代表が御用達のアンティーク家具屋さんに足を運んで一緒に家具を見て回り、そこで出会ったのがロビーの置き時計でしたね。他にも、ロビーラウンジのテーブルや椅子も一緒に選ばせていただきました。笹倉代表のこだわりや理想が詰まった建物になっているように思います。現在、THE GOAT AWAJIにはどのようなお客さまが宿泊されているのでしょうか? 

代表こだわりのテーブルや椅子が並ぶロビーラウンジ

 

笹倉
当初はファミリーでの利用が多くなるじゃないかと予想していましたが、若い方たちにも多く利用してもらってます。大阪や神戸にはこういったリゾート地がないので、淡路島はちょっと癒されに来るにはもってこいの場所です。道路が混んでいなかったら大阪から一時間で来れますから。

オープンしてまだ半年ほどですが、すでにリピーターの方が何組もいらっしゃいます。当社のリゾート施設は、ホテルというより別荘として使うようなイメージが近い。初めは1泊でお泊まりになた方も、1泊して翌日午前にチェックアウトしてはもったいない、もっとゆっくりくつろぎたいといった声も多く、連泊される方が増えています。 

嶋田
リピーターの方たちにも楽しんでほしい、いろいろな使い方をしてもらいたいという要望もありましたので、部屋のデザインは4つとも異なります。そういったところも楽しんでもらえると嬉しいですね。 

大きな窓を開けると解放感のあるヴィラ棟

 

笹倉
自分の使命は「皆さんに喜んでもらえる場所を生み出すこと」だと日ごろから思ってるんです。だから、私たちのこだわりや想いが詰まった「THE GOAT AWAJI」 も長く愛される宿泊施設になれるといいなと考えています。

一方で、いま「THE GOAT AWAJI」がある東浦エリアで一番足りないのが「食」なんです。ホテルの1階では鉄板焼き、近隣でも私たちが飲食店を何店舗か運営していて、今年6月には古い建物を改修したカフェレストランもオープンする予定ですが、まだまだお客さまに満足いただける数ではないという課題があります。需要に合った飲食店を展開し、ちゃんと雇用も生み出していきたいですね。

嶋田
淡路島は、名産の玉ねぎはもちろん魚介もとても美味しいのですがたしかにこのエリアは飲食店が少ないですね。私も工事中によく来ていましたが、ごはんを食べる場所にはとても苦労しました。以外にも何か企画していることはあるのでしょうか?

笹倉
アクティビティにも力を入れていきたいと思っています。「THE GOAT AWAJI」の近隣でアクティビティというのは海水浴以外にあまりない。かといって、わざわざ淡路島まで泊まりに来てみんなでワイワイ楽しんで、次の日すぐ解散して帰るなんてもったいないでしょう?だからチェックアウト後にも楽しんでもらえるようにと、夏から40フィートのクルーズ船の就航を予定しています。 たとえば、ホテルをチェックアウトしたら送迎車で近くの港に行き、船に乗って明石大橋の下を2時間クルージングしながらお酒や料理を楽しむ。そんな宿泊以外の楽しさ・空間も提案したいと思っています。

BBQが楽しめるルーフバルコニー

 

嶋田
ホテルだけでなく淡路島を存分に楽しめる最高の時間の過ごしになりますね!

笹倉
そうでしょう、やるからには早く船長を探そう教育しようと社内で話していたところグループ内の宿泊施設のアルバイトに1級小型船舶操縦士の免許を持っている子がいるとわかって。しかも本業は釣り船の船長で、今でも釣り人を運んでいるというです。プロですよ。これはもう彼しかいないと、正社員になってウチのクルーズ船の船長になってくれと口説いてね。いままさに走るコースを決めたり練習させたりしています。 

嶋田
先ほどの食の話もですが、地域活性や従業員の雇用についてもとても前向きに取り組んでいらっしゃるように感じました。この根底にはどのような考えがあるのでしょうか? 

笹倉
「人を雇用する」ということを大事にしています。ただ、人を雇用するからには会社も成長しないといけないですよね。極端な話、10年前に入った従業員が10年経っても立場も収入も変わら状態では雇用する側として責任がなさすぎる。だから働いてくれている従業員が夢を持てる仕事を生み出したいといつも考えています。 

嶋田
THE GOAT AWAJIを中心に新しい文化・雇用が広がっていくようでとても嬉しいです。今後の事業展開も楽しみにしています! 

MORE WORKSその他の実績