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【インタビュー付】株式会社リクルート 九段下オフィス

PROJECT STORYプロジェクトストーリー

九段坂サステナブルプロジェクトが提言するNEWオフィススタンダード 3

次の「働き方」を実現する4つの施策 ~③地域社会・地球環境との共生

 

株式会社リクルート総務・働き方変革総務統括室ワークプレイス統括部の西田華乃氏 写真:SHUNICHI ODA

 

――「地域社会・地球環境との共生」という施策について教えてください。

西田 リクルートは全社的にSDGsへの取り組みを始めています。そうした中、この九段坂サステナブルプロジェクトにおいては、持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)の12番目の目標である「つくる責任、つかう責任」に挑戦しました。
まず、築60年のビルを使い続けるということそのものがサステナブルだと思います。じつはリクルートの都内の7つのオフィスを1箇所に集約する計画を進める中で、当初は多くの候補がありました。新築ビルも含め、複数の不動産会社が多数の候補地を提案してくれましたが、この九段坂上KSビルを提案した不動産会社も、当社がここに決めるとは思っていなかったそうです。東京の中心にあってどこからでもアクセスしやすい立地、千鳥ヶ淵と靖国神社が目の前という素晴らしい景観、低価格な賃料なども理由でしたが、最終的にこのビルの決め手になった要素の一つが地域社会・地球環境との共生でした。

 

九段坂上KSビル(1960年竣工) 写真:KEIKO CHIBA

 

――このビルは築60年を超えていますから、取り壊しになる可能性もあったかと思います。
これだけのビルを解体するとなると大量のコンクリートガラなどの廃棄物が発生しますし、新築ビルには大量の資源が使われますね。

西田 そうです。このビルは外観も素晴らしいですし、活かさないともったいないと思いました。私たちが入ったことで寿命が伸びた可能性はありますね。ただ、この1棟だけでSDGsに大きく貢献できるものではないと思っています。この築古ビルには新築ビルにはない構造の面白さがありました。そうした構造を生かして、新しい時代のオフィスのあり方を提言することができ、これから多くの築古ビルが再活用されるようになり、長く使い続けられるようになることが、SDGsへの貢献だと思っています。

 

――新型コロナウイルスの影響でリモートワークやオンラインミーティングなど新しい働き方が加速する中で、多くの企業でデスクの数も従来ほど必要なくなるでしょう 。
オフィスの形も見直しする企業がこれから増えるのではないかと思います。そうした企業がこのオフィスを参考にして、築古ビルへの移転を選択肢として選ぶ可能性もありますね。リノベーションをする上でのポイントは何だったのでしょうか。

西田 一つ目のポイントは、この築古ビルの素材を生かすということですね。このビルは全面的にリノベーションされていますが、天井も壁も、ほぼコンクリートの躯体がむき出しです。古い構造のビルなので柱や梁が多く非常にゴツゴツしているのですが、それが無骨でいいですよね。当社が入るときにはついていた内壁や天井を取り壊したら、たまたま60年前の雰囲気のある壁が出てきたので、そのまま生かすことにしたのです。

 

内壁を剥がしたことで数十年ぶりに露出されたコンクリートブロックの壁。写真:KEIKO CHIBA

 

――職人さんが作業のために壁に書き残した文字や図なども、そのまま残してありましたね。あれは格好いいです。

西田 はい。その剥き出しの壁の上に直接サインを書いてもらったり、梁の形を生かしてパンチングボードのサインをつけてもらったりしました。新しい壁や天井をほとんど作らなかったですし、OAフロアを作らずに床も底上げをしていないので、省資源化に貢献していると思います。古いビルをリノベーションするといっても、石膏ボードや壁紙、フロア材をこれだけの面積のビルに入れると、大量の資源を使うことになりますからね。

 

柱と梁の形に合わせて作ったパンチングボードのサイン。写真:YURIKA KONO

 

柱と梁の形に合わせて作ったパンチングボードのサイン。写真:YURIKA KONO

 

コンクリートの壁に書かれたサイン。写真:YURIKA KONO

 

――もう一つのポイントはなんでしょうか。

西田 できるだけ空間を仕切らないということです。ミーティングスペースも、基本的に間仕切り壁で塞いで密閉するような作りにはしていません。目隠しとして、スライディングドアのような可動式の間仕切りだったり、カーテンだったり、ホワイトボードを壁代わりにするといった工夫をしていますが、上部は空いています。こうした作りにした理由は、ミーティングする人数や内容によって自由に空間を使って欲しいからという理由もありますし、SDGsを意識もしていますね。

 

可動式のホワイトボードを活用。写真:KEIKO CHIBA

 

――仕切りがないということは、会議の時に声が漏れてしまったり、外の音が気になったりしませんか。

西田 音環境の問題はもちろんあります。ブレストの際にも、「壁がない会議室を作ろう」となったときに、音の問題はどうしたらいいんだろうという話になって、GOOD PLACEさんに吸音材とか遮音カーテンとかいろいろな素材を調べてもらったんです。私も音の仕組みなどの本を読んで勉強したり、音の専門家に話を聞きに行ったりもしました。そうした結果、ミーティングスペースにサウンドマスキングシステムを導入しました。

 

――それはどのような仕組みなのですか。

西田 具体的には、上部に設置したスピーカーからマスキング音という特殊な音を出して、音を音でかき消すという仕組みですね。マスキング音そのものは、「何か聞こえるな」ぐらいの小さな音なのですが、効果があります。サウンドマスキングのかかっている向こう側で会議をしている場合、何かを喋っていることはわかるのですが、言葉の内容がよく聞き取れず、気にならなくなります。

 

ミーティングルーム「ジョイン」にはサウンドマスキングシステムが導入されている。写真:YURIKA KONO

 

――資源を使わなければ、将来的にまたレイアウト変更をする際にも廃棄物が少なくなりますね。

西田 ええ。オフィス家具も以前のオフィスから持ってきてだいぶ使いまわしているんですよ。執務室の長テーブルはほとんど旧オフィスで使用していたものを持ってきていますし、最上階の「パノラマ」というフロアには様々なチェアが置いてあって、全体としておしゃれな空間になっていると思いますが、あそこにあるチェアも7つの拠点から持ってきたものなんです。

 

――パノラマのフロアの壁に、千代田区と九段エリアの年表がありましたね。

西田 九段坂サステナブルプロジェクトでは、SDGsの11番目の目標である「住み続けられるまちづくりを」も意識しているんです。まずこの九段に来たリクルートの従業員が、この地域のことを理解することから始まると思っていて、年表を壁に貼りました。年表には各項目にQRコードがついていて、それらを読み取ると、詳しく書いてあるサイトに飛ぶ仕組みになっています。みんなに地域のことを勉強してもらいたいですね。

 

――なるほど。地域を知った先に、この地域との繋がりを深めたいという想いも込められているわけですね。

西田 新型コロナウイルスの影響でまだできていませんが、地域の人と交流するようなイベントの開催や、町内会や地域の行事に従業員が参加するような取り組みも考えています。ランチタイムには1階の外に面したスペースに曜日ごとに違うキッチンカーが来るのですが、近所の方もよく買いに来られています。そうした小さなつながりから広げていけたらいいなと思います。

 

――1階にシャワーとロッカーを備えたランニングステーションも設けていますが、まさに皇居ランの拠点になりますね。これは従業員の健康にももちろんいいですが、地域との接点にもなりそうですね。

西田 目の前が皇居のお堀ですので、皇居ランの拠点としてはベストポジションですし、散策するだけでも気持ちのいい場所ですので、いろいろな使い方をしてほしいですね。外には自転車置き場もありますので、自転車で通勤するのも良いと思います。現在ランニングステーションはリクルートの従業員が使用可能ですが、将来的には対象を広げたいと考えています。

 

1階に設置されたランニングステーション。皇居周辺のマップが壁に描かれている。写真:KEIKO CHIBA

 

 

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