恒久的な場のデザインに憧れて
29歳の時に中途入社しました。学生時代に建築とインテリアを学んだのちに、前職はゼネコンや展示会のデザイン会社を経験していたのですが、長くても一週間ほどで解体されてしまうものばかりをデザインしているうちに、長く使い続けられる、恒久的に残る建物やインテリアのデザインをしたいと思うようになったことが、当社への転職を決意した背景にあります。20代の頃は一人旅で海外を転々としていた時期もあったので、私にとって当社は4社目でした。
入社から2年目までは、施工管理者としてオフィスの原状回復工事や入居工事などを担当し、見積もりの段階からクライアントの窓口として関わっていく仕事を経験しました。それまでのキャリアではコストを扱う業務に携わることは無かったので、各協力会社さんから見積もりをもらい、自分で積算して工事全体の予算を管理する経験からは得るものが多かったです。施工管理の仕事を進める中で、元々志望していた設計に関わりたい気持ちが強くなり、3年目のタイミングで自ら異動願いを出し、念願の設計部署に異動となりました。
クライアントと同じベクトルに進んでいくこと
異動後は、オフィス構築を手掛ける部署で設計を担当することができました。当時からお取引のあったリクルート様をはじめ、ネームバリューのある企業の設計を担当させてもらったことで、さまざまな実績を積むことができたと思っています。
もっとも印象深かったプロジェクトに、国際的な活動をしているNPOの東京オフィスの仕事があります。元々海外につながる仕事に興味があったので、個人的にクライアントの活動には高い関心を持って取り組むことができました。一般の方からの寄付によって活動している団体なので、そこまでコストはかけられなかったのですが、世界中にある支部と東京のオフィスとの繋がりを表現できないだろうかと、外部パートナーとしてグラフィックデザイナーや映像クリエイターにも参加してもらい、東京でのクライアントの活動をアピールする空間をつくり上げることができました。クライアントの社長さんからは、仕上がった空間に対して喜びの声を頂き、自分の中では最も成功した事例だと思っています。
どのプロジェクトにおいても、クライアントと同じ方向を向いて進んでいくことが何より大事だと思っています。そこさえ合っていれば、「ここは絶対にやりましょう」と感じるポイントも一致します。あとは、プロジェクトを進める中で、クライアントが当初から掲げていたコンセプトと、私たちが提案するデザインがずれてしまわないように、必ずコンセプトに立ち戻って話をすることも大切ですね。
“車のオフィス化”を提案する新規事業「mobica」への挑戦
2021年に新規事業のアイデアを募る社内コンペにて私が提案した案が採用され、2年間をかけて事業の立ち上げに挑戦しました。初めはA4の紙1枚に「車のオフィス化」と書いただけのアイデアだったのですが、70案ほどの社員の提案の中から選ばれたことで、具体的な事業として動き出して生まれたのが「mobica(モビカ)」です。
これまでは決められた場所に出勤して建物の中で仕事をすることが当たり前でしたが、現在はカフェやコワーキングスペース、移動中の新幹線や飛行機でも仕事をするようになり、いわゆる「不動産」だけが仕事場ではない時代に移り替わりました。そういった時代の流れを受けて、「不動産」ではない「可動産」として、車の中にオフィス空間を設け、自由に移動しながら働くことができたら、より働き方の選択肢が広がるのではないかと考えたのが、「mobica」が生まれた背景にあります。もともと旅が好きだったことも、このアイデアを思いついた理由の一つですね。
発案者である私がプロジェクトリーダーを務め、事業収支の計算からメインターゲットや販路の設定などを推進していきましたが、これまで全く触れてこなかった経験ばかりで、最初の1年間はなかなかうまくいかないことも多かったです。事業化に向けて伴走してくださる外部の方と毎週打ち合わせし、ひたすら事業計画を練り続けました。
その後の1年間は、車をオフィス化するための設計はもちろん、車の架装を手掛ける協力会社の方や映像クリエイターと協働しながら、全体を取りまとめるディレクションを担当しました。建築業界とは異なる領域の方と打ち合わせをしながら、ひとつずつ事業化に向けて進めていくことができたのは、これまでの経験があったからだと感じています。
デザイン室長の個性を生かす体制づくり
2023年からは、3人の室長を中心とした組織体制がスタートしました。デザイン課の課長としては、クライアントの「らしさ」が感じられる場を提案することを全体で大事にしながら、室長の個性や特性を生かしたデザインが実践できる体制を整備していくことが当面の目標です。
どの室長も経験豊富で実力のある設計者なので、基本的にデザインのアウトプットは、それぞれに任せていくつもりです。もちろん、引き続き課長として教えられることは教えていくつもりですし、メンバーのデザインがいまひとつの時は「全然ダメ」と伝えるつもりです(笑)。これからは、メンバーのモチベーションを高めていくために、いかに課全体を盛り上げていくかを大事にしていこうと思っています