服飾から空間デザインの世界へ
大学では建築とは全く関係のないフランス文学科に所属していました。大学4年時に服飾史に興味を持つようになり、徐々にデザインに強い関心を持つようになったことから、大学を休学し、服飾のデザインを勉強するためにニューヨークの専門学校に留学しました。ところが、アパレル企業への就職はいまいちピンとこなかったんですね。ものすごいスピードで大量生産と大量消費が行われている現代のアパレル産業では、自分が服飾に面白みを感じていたようなことはできないだろうなと、直感的に思ったんです。
そんなことを考えながら、ある日採用イベントに出かけたのですが、そこで当社の人事担当に話しかけられ、空間デザインの仕事を勧めてくれたことが、この世界に興味を持ったきっかけでした。それまで全く知りませんでしたが、話を聞いていくうちに自分が関心のあることができそうだなと感じたんです。
空間づくりは基本的にオーダーメイドなので、クライアントの想いを言葉や概念で表現し、それらを形にしていきます。空間は色々な人が体験できますし、空間と人は相互に影響を与え合うことができる。僕が服飾に興味を持ったのは、社会の雰囲気や時代の流れが服飾において表現されたり、逆に服飾が社会に影響を与えたりするダイナミズムに面白さを感じていたからで、空間デザインであればそれが実現できるんじゃないかと感じたことが、入社を決めた理由でした。
コンセプトメイキングを通して本質的な課題解決を考える
1年目は施工管理課に配属となり、オフィスの施工現場で経験を積みました。僕は自分で手を動かすことが好きですし、根底にはモノづくりが好きな気持ちがあるので、現場でさまざまなつくり方を間近で見ることができたのは面白かったです。2年目からソリューションPMを担当するようになりましたが、1年目の現場経験は今でも自分の仕事の土台になっているのを感じています。
僕たちソリューションPMは、提案書を作っていく際にクライアントの要望を深掘りし、本質的な課題は何なのかを考えた上で、それをデザインで解決するための仮説を立てる、コンセプトメイキングの仕事をおこなっています。クライアントからの要望が必ずしも正しいとは限らないので、僕たちはファイナンスも含めた企業が置かれている状況や背景など、さまざまな資料を読み取りながら仮説を立てていきます。「なぜそうなんだろう?」「本当にそれでいいんだろうか?」といったことを考えるのは好きだったので、自分にこの仕事の適性があったのを感じます。
コンセプトを伝えるストーリーとデザインの「正解」
コンセプトをデザインに転換する上では、そのストーリーを仕立てる言語化能力、言葉の力も必要になってきます。これまで文学的な表現力やストーリーの構成を学んできたので、この仕事ではその経験も役に立っていると思います。
空間においてデザインはあくまでコンセプトを伝える表現であり、本質的にはそのコンセプトにこそ意味があると考えています。こだわりのデザインを空間に取り入れるといったことではなく、そのデザインが正解なのかどうか、コンセプトを伝えるストーリーに沿っているかで判断していきます。
とはいえ、以前は社内の設計者と意見がぶつかることもありましたね。ただ、ロジカルに議論して、その結果良いと思えるものは素直に取り入れる柔軟さが、チームには常にあるので、建設的な議論をしてデザインを洗練させてこられているのだと思います。
優れたコンセプトを体現するプロダクトへの挑戦
これからは、空間づくりから発展させて、使う人の心を動かすことができる、優れたコンセプトのプロダクトづくりにもチャレンジしたいと考えています。
例えばiPhoneなどの優れたプロダクトでIT市場を席巻するAppleの場合、プロダクトをデザインしているのはかつてのジョナサン・アイヴのようなデザイナーでしたが、ブランドの精神として表現されていたのは、スティーブ・ジョブズの思想であり、それが形をとる際に規定されるコンセプトですよね。一目見たり、手に取って触ったりするだけで人が何かを感じ取ることができるのは、やはりコンセプトの力があるからだと思います。
空間デザインの仕事は実際にその空間にいないとその本質を伝えきれないので、当社のデザイン精神が感じられるプロダクトをつくることができれば、より多くの人に活動を周知することができます。僕としては、海外の展示会への出展といった国外での活動に当社が取り組めるきっかけにもなるのではと考えているので、現在モックアップ制作から徐々にプロジェクトを進めています。