再生医療×幾何学デザインのオフィスコンセプトは「Geometric Clear」
再生医療事業を展開するセルリソーシズ株式会社様が、東京都大田区の羽田イノベーションシティ内に新たなオフィスをオープンしました。
本オフィスはGOOD PLACEが設計・施工・PMを担当し、2026年春頃に同ビル内に完成予定の3番目の製造拠点「羽田Process Development Center」に付帯するオフィスとして、先行して開設されています。国際空港に近い羽田という地の利を活かした、国内外のお客さまとのコミュニケーションの場にもなることを想定しています。
そこで今回、セルリソーシズ株式会社 代表取締役社長の有田 孝太郎様と経営企画部マネージャーの有田 夏怜様に、オフィスの構築をGOOD PLACEへご依頼いただくことになったきっかけや提案から完成までの過程、今後の展望などを伺いました。
聞き手:株式会社GOOD PLACE ソリューションPM部 日高 英之、ストラテジックデザイン部 石塚 啓太郎
取材・文:住吉 大助
国内外へ再生医療を届けるため、羽田にオフィスと製造施設を新設

羽田Process Development Centerのオフィス。35.7坪の空間を最大限に活かすデザイン 写真:KEIKO CHIBA(Nacasa&Partners)
株式会社GOOD PLACE ソリューションPM部 日高 英之(以下、日高)
たいへん光栄なことに、この度、セルリソーシズ様の羽田Process Development Centerがイタリアのデザインアワード「A’ Design Award 2025」のブロンズ賞を受賞しました。セルリソーシズ様の再生医療という事業領域と新オフィスへの想いに、当社設計の石塚の思考が掛け合わさって、コンセプトやディテールに昇華できたことが大きかったと思います。今回のオフィス新設を決めたころ、どんなことを課題と感じていたのでしょうか。
セルリソーシズ株式会社 有田 孝太郎様(以下、有田 孝太郎様)
私たちは「再生医療という希望をすべての人に届ける」ことを理念に掲げています。東京都内の本社の他、羽田から多摩川を挟んだ神奈川県川崎市と、福島県郡山市に製造施設を持ち、国産の細胞原料の供給や細胞加工物の製造・再生医療等製品の製造を通じて多種多様な再生医療等製品を世に送り出そうとしています。再生医療の例を挙げると、例えば心臓に病を抱えている方の心筋に細胞のシートを移植することで機能を補填することができます。しかしまだ再生医療を知っていただく機会や再生医療等製品の数は少ないのが現実です。より多くの方々に再生医療の可能性を知っていただくとともに、創薬シーズ*の製品化を目指す国内外のお客さまに弊社を選んでいただくためにも、製造の現場を見ていただく機会をつくりたいと思っていましたが、既存の2つの製造施設はいずれもアクセスがよいとは言いがたい場所。そこで弊社のサービスを周知できる拠点として、羽田にオフィスと製造施設を設けることにしました。
*創薬シーズ:新薬の候補となる化合物、抗体、遺伝子、細胞などの「種(タネ)」のこと

セルリソーシズ株式会社 代表取締役社長 有田 孝太郎様。セルリソーシズは「細胞(Cell)」と「資源(Resources)」を組み合わせた社名で、国産の細胞原料の供給や細胞加工物の製造・再生医療等製品の製造をおこなっている 写真:UKYO KOREEDA
日高
より多くの人に再生医療の可能性を知っていただくため、羽田Process Development Centerでどのような事業をおこなう計画でしょうか。
有田 孝太郎様
弊社では再生医療等製品の製造だけでなく、製品となる前段階にあたる“どのようにして製品化していくか”を探究する「プロセス開発」の受託もおこなっていて、この春頃完成予定の羽田の製造施設ではプロセス開発を主におこないます。羽田空港に近く、都内からのアクセスも良いこの場所にオフィスと製造施設を併設することで、日本だけでなく世界中のサプライチェーンの上流に携わる人々にセルリソーシズのサービスに触れて、知っていただく場にします。そのため、羽田イノベーションシティを選んだのです。羽田イノベーションシティは先進モビリティや健康医療、ロボティックスといった未来の暮らしをつくる企業が集まる、大田区と企業が公民連携で開発を進めてきた街なので、私たちの再生医療関連事業ともマッチしています。

セルリソーシズ株式会社 経営企画部マネージャー 有田 夏怜様 写真:UKYO KOREEDA
セルリソーシズ株式会社 有田 夏怜様(以下、有田 夏怜様)
GOOD PLACEさんとの出会いは、羽田イノベーションシティのデベロッパーさんにご紹介いただいたご縁でした。羽田イノベーションシティ全体の設備関連の工事をされていて、それだけでなく内装の提案や施工もできるということで教えていただいて。実際、GOOD PLACEさんのご担当の方にお会いしたら、どなたも一生懸命に取り組まれていて、とても良い印象が残っています。
日高
GOOD PLACEは羽田イノベーションシティの空調や電気、消防設備などいわゆるB工事と呼ばれる設備関連の指定工事を受け持っていました。その先のC工事と呼ばれる内装工事については、通常は入居者様がそれぞれ業者を別に選定することが多いのですが、ビルの指定工事会社だったというご縁から、セルリソーシズ様のお話を何度か伺ったのちご提案をして、設備工事だけでなく内装工事も携わらせていただくことになりました。

株式会社GOOD PLACE ソリューションPM部 日高 英之 写真:UKYO KOREEDA
有田 孝太郎様
初回のご提案をいただく前に、GOOD PLACEさんのオフィスを見学したことがとても参考になりました。実際のオフィスを見て、これなら私が求めるお客さまとのコミュニケーションの場でありながら、社員が働きやすいオフィスができると思いました。
有田 夏怜様
ただ私たちにとって、このようなオフィスの構築は初めての経験。どんな機能が必要なのかまとめることさえ大変な私たちに、日高さんから「アンケートを取ってみませんか」とご助言いただいて、初回の提案後に社内アンケートを実施していただき、改めて方向性を探ることから始めました。
コンセプト「Geometric Clear」をもとに、オフィス機能を幾何学的につなげる

オフィスの中央をガラスで区切り、プレゼンスペースとしても活用できるエントランス(手前側)と執務室(奥側)を分けている 写真:KEIKO CHIBA(Nacasa&Partners)
日高
オフィスづくりの過程でおこなう社内の要望についてのアンケート調査は、比較的規模が大きな企業で採用することが多いのですが、セルリソーシズ様はプロジェクトに関わる役員と社員の方約10名にヒアリングし、丁寧な要件整理の過程を踏みましたね。羽田オフィスは主に国内外のお客さまとの打ち合わせや、2026年春頃に同じビル内に完成予定の製造施設で働くスタッフがミーティングや休息する場として活用されます。フリーアドレスを採用していて、製造施設とオフィスで働く社員は最大25名程度です。
有田 夏怜様
アンケート結果では、欲しいものとして「会議室」や「ひとりになれる空間」「集中して仕事できる空間」「お昼を食べられる休憩スペース」などが上がってきました。あと「みんなで集まれる空間」も欲しいと。35坪強の空間に、これらをそのまま詰め込むことは難しいだろうと思ったのですが、設計の石塚さんが上手に解決してくれました。
株式会社GOOD PLACE ストラテジックデザイン部 石塚 啓太郎(以下、石塚)
セルリソーシズ様の再生医療領域の事業から、細胞を着想源とし、器官や組織のように細胞が繋がり合うことで多種多様な役割が生まれることを表現しようと考えました。再生医療に携わる製造施設としての清潔感や信頼感の創出、あわせて細胞による構造体の可能性をプロモーションとして体感できる空間を目指し、「Geometric Clear(ジオメトリック・クリア)」というコンセプトを立ち上げました。
正方形のテナントなので、水平垂直に区切ってレイアウトしていくのがわかりやすく簡潔な回答のひとつではありますが、それはコンセプトに準じていないためあえてそうはしていません。細胞をヒントに、直角で交わるところが一つもない、幾何学的なゾーニングやデザインでつくりあげています。

株式会社GOOD PLACE ストラテジックデザイン部 石塚 啓太郎 写真:UKYO KOREEDA
有田 孝太郎様
「Geometric Clear」を最初に耳にしたとき、率直にいいなと思いました。実は私自身、型にはまるのを好まない部分があり、オフィスに対しても、壁で仕切られた普通の会議室のような旧来のイメージとは異なるものにしたいと思っていたんです。だからもう聞いた瞬間、良いコンセプトだなと思った記憶があります。
有田 夏怜様
私は「Geometric Clear」がどんな空間になるのか具体的にはイメージしづらかったのですが、ミーティングを重ねる中で、細胞を連想させる部分や洗練された感じに加えて清潔感もあるデザインが、海外のお客さまにも良い印象を持っていただけるのではないかと感じました。
石塚
「Geometric Clear」を体現するため、正方形のテナントにガラスの壁面を斜めに配置し、コンパクトなオフィスであってもガラスが生み出す抜け感を活かした空間にするアイデアは、初回のスケッチをお見せした時点で盛り込んでいました。オフィスへの出入口だけでなくお客さまへのプレゼンスペースとしても使える「エントランス」と、従業員が使う「執務室」の2つに大きく分けていますが、間はガラスのパーテーションなので、互いの空気感が伝わるよう設えています。加えて執務室側にシアーカーテンを備えることで、使用場面によっては2つのゾーンをしっかり分けることもできるようにしています。
さきほどお話を聞きながら思い出したのですが、初回提案の後、アンケートに加えて、私の描いたスケッチも皆さんに見ていただきました。直線的な幾何学デザインと曲線的な幾何学デザインのどちらが適しているか聞いたり、家具の形や配置について印象や使い勝手を聞いたり。そういったキャッチボールを繰り返しながら、デザインの完成度を高めていきました。

ゾーニングの考え方をあらわしたダイアグラム

「気に入っている空間は、プレゼンにも使えるエントランス」と話す有田 孝太郎様(左) 写真:UKYO KOREEDA
有田 夏怜様
当初、エントランスと執務室の適切な面積配分についてあまりイメージが固まっていなかったため、石塚さんから「Geometric Clear」に基づいたスケッチを用いたご提案をいただきました。国内外のお客さまと出会う場にしたいと考えていたので、エントランスに十分なスペースをとった現在のバランスになりました。
日高
このくらいのオフィスの広さの場合、比較的短い設計期間で工事がスタートすることも多いですが、今回のプロジェクトの場合は設計時間に余裕がありました。そのおかげで、石塚のコンセプトワークやゾーニング、家具の配置など、私たちも検討に検討を重ね、セルリソーシズ様とのミーティングを毎週のように繰り返し、1年ほどかけて良いデザインをつくりあげることができました。

コンセプト「Geometric Clear」の話になると、各自からエピソードが次々と飛び出してくる 写真:UKYO KOREEDA
石塚
あの頃、仕事以外の時間にもセルリソーシズ様のオフィスのことを考えていた覚えがあります。「あの壁位置をもう2°ずらした方がいいんじゃないか?」とか。壁の位置と造作家具の角度など、すべてがリンクしているので、どこかの角度を2°変えると全部のバランスに影響していくんです。なので、ずっと「こっちの方がいいかな」「いや、あっちの方がいいな」などと、とにかく細部まで検証を重ねてデザインをつくりあげていきました。
有田 夏怜様
初めは100%理解できているわけではなかったコンセプトの「Geometric Clear」でしたが、石塚さんからさまざまなご提案をいただく中でとても腹落ちし、GOOD PLACEさんと共通認識ができるようになりました。最後の頃には石塚さんのご提案に対して「そのデザインは『Geometric Clear』ではないのでは?」と私達から異を唱えることもありましたね(笑)。
石塚
皆さんのご意見のおかげで、より「Geometric Clear」な設計になったと思います。このコンセプトを共有して、目指すところを1つに絞れたことがとても重要でした。単にデザインや居心地のよさを目指すのではなく、「Geometric Clear」かどうか、という判断軸でお互い同じ視点で並走できました。幾何学的な形状でラインが張り巡らされた天井照明を提案した時も、皆さんから「このアイデアはとても『Geometric Clear』でよい」といったご評価をいただいたことは未だに鮮明に覚えています。

縦横に張りめぐらされたライン照明が繋がり合う細胞のように見える 写真:KEIKO CHIBA(Nacasa&Partners)
日高
他のプロジェクトでも同じライン照明の機器を使ったことがありますが、セルリソーシズ様のオフィスのような使い方はしたことがありません。おそらくメーカーもこのような使い方はしたことがないのでは。それくらいチャレンジングなデザインです。その分コストも上がってくるので、ここだけの話、当初僕は石塚に「ライン照明を設置するのはオフィスの半分だけでいいのでは?」と話したこともあったんです(笑)。結果的には「オフィスの全面に設置することでテナント全体の奥行きと各エリア同士の一体感が生まれるので、全面に入れたい」という石塚の熱量が勝りましたが。
有田 孝太郎様
私は、ライン照明を絶対入れようと言っていました。この照明が「Geometric Clear」の肝だから、他のコストを抑えてでも入れて欲しいと(笑)。
有田 夏怜様
ライン照明はもちろん、その他の細かなところまで、コンセプト「Geometric Clear」が軸にあります。そもそも、私たちの要望に沿ったコンセプトをGOOD PLACEさんが定めて、私たちに歩調を合わせて進めてくださったことで、私たちもブレずに判断できたと思います。
2026年春頃に製造施設も完成し、オフィスは再生医療のハブスポットに

執務室の中央に配されたテーブルは、ちょっとしたコミュニケーションやミーティングにも活用 写真:UKYO KOREEDA
日高
オフィスが完成して実感したことや変わったことなどはありますか?
有田 孝太郎様
海外のお客さまを招いた時の反応がとてもよいです。ライン照明を見てポジティブな驚きを表現してくださいます。
有田 夏怜様
元々、海外のお客さまとのハブになることを目指していたので、オフィスのデザインを見て、感じてもらうことで、海外のお客さまとデザインを通じて非言語でコミュニケーションをとれることがとてもいいなと思います。先日、実際にここでミーティングをおこなって、海外の企業様とアライアンスを結ぶこともできました。
有田 孝太郎様
それから今、新卒の採用活動の一環として、人事総務部が週末に学生をこのオフィスに招いて職場体験会を開いているのですが、応募数が確実に増えました。

「新卒採用での予想外のよい効果もあった」と話す有田 夏怜様(右) 写真:UKYO KOREEDA
有田 夏怜様
このエントランスで学生たちに事業内容などを紹介しています。人事総務部に聞くと、このようなオフィスや製造施設はまだ少ないようで、学生は皆一様に驚き、働きがいのある空間として興味を持っていただいています。オフィスをつくる時点では気づいていなかった副次的な効果ですが、とてもよかったです。
日高
実はGOOD PLACE内も変化が起きているんですよ。セルリソーシズ様のオフィスが完成した後、他社から研究施設や実験室などの内装工事の依頼が増えているんです。当社はもともとオフィスの移転・内装は得意とするものの、これまで研究施設などの分野を手掛けることは少なかったんです。ところがセルリソーシズ様のオフィスをきっかけに社内的にも評価され、新たな領域にチャレンジする機運が高まっています。
有田 夏怜様
現在は、今年の春頃にオープン予定の製造施設の工事が進んでおり、こちらもGOOD PLACEさんにご依頼しています。製造施設という用途のため、通常のオフィスとは異なる法令なども多くあり、私たちから「こうしてほしい」「あれはダメだ」といろいろ注文をつけなければならないことがありました。そのためGOOD PLACEさんからすれば面倒なことがたくさんあったと思います。でも私たちの意見にしっかり向き合って、ちゃんと解決できる提案を持ってきてくださることがすごくありがたかったです。

写真:UKYO KOREEDA
日高
ありがとうございます。今回のオフィスの設計を担当した石塚は、とにかくセルリソーシズ様が大好きなんです。
有田 夏怜様
それだけの情熱を注いでいただいて、このオフィスができあがったので、本当にGOOD PLACEの皆さんのおかげだなと思っています。石塚さんは実際に施工された床材を使ってつくったウォールアートをオフィスに贈ってくださりました。

GOOD PLACEの石塚が実際に施工された床材を使ってつくり、セルリソーシズ様へ贈ったウォールアート 写真:UKYO KOREEDA
石塚
各エリアで採用した合計5色の床材を縮尺を変えた実際の貼り分けで使い、天井のライン照明の配灯位置とエリア間の壁位置に金属の棒材を入れた僕の手作りウォールアートです。この空間の個性が一層人に伝わりやすいものとなるよう、このオフィスをアートとしてデフォルメしました。このアートを観たり触れたりすることで、ここで働く皆さんにとっての場所への愛着やセルフブランディングに繋がること、あわせて訪れたお客さまにとってこの場所が記憶に根付くことを目指しました。
有田 孝太郎様
いいですね! このウォールアートがオフィスにある意味が強まって。
有田 夏怜様
今はまだオフィスに物も少なく、他には何も飾っていないので、より印象が強くなりますね。
石塚
フリーアドレスで椅子もテーブルも1人用ブースも動かせる仕様にしており、高い可変性と動きのある空間としています。そのためこのオフィスは皆さんの使い方にあわせて有機的に変わっていきます。だからこそ、変わらないこの空間の個性をアートとして残すことは、体や細胞が新陳代謝を繰り返しながらも形を維持するように、このオフィスが自分らしく成長していくことにつながると考えています。
有田 孝太郎様
この春頃、製造施設も完成します。多くのお客さまと羽田Process Development Centerでお会いできることを楽しみにしています。

左から 株式会社GOOD PLACE 日高 英之、石塚 啓太郎、セルリソーシズ株式会社 代表取締役社長 有田 孝太郎様、経営企画部 マネージャー 有田 夏怜様 写真:UKYO KOREEDA